■僕に息を潜める、(仮)

真っ赤な華が咲いている
僕はその華に触れず
横道を　通り過ぎてゆく
静かな目線を投げかけて
色が移らぬよう そろそろと

本当は一緒になりたい
本当に逃げ延びたい
本当は流るるままに
本当に、怯え続けて

強い色は僕を
色濃く写し取って
拒まれる自分すら
鮮やかに僕の瞳に、

少し足を伸ばそう
もう少し遠くへ行けば
穏やかに広がる泉へと
同化出来るはずだから

僕が浮き彫りになる前に
早く　僕は　まっさらになりたい

[つづき]

■見過ごした刃の爪痕(仮)

君の傷口が僕には近過ぎて
傷付けた凶器は遠過ぎて
僕にはその生々しい傷の
癒し方が分からない

怪我の種類はなんだろう
深過ぎて何も見えない
凶器の種類はなんだろう
可能性が多すぎて特定出来ない

不甲斐ない僕の能力が
視力の良さ 腕の長さ
何もかもがまだ足りない
君を見るにはこんなんじゃ
全てが足りないまま

[つづき]

■繊細すぎた型(仮)

明らかなる鎖も
『断ち切る訳にはいかない』、と
耐え忍ぶ貴方
逃げ出しそうだった私は
貴方の姿に足を止め
もがく事の無いその四肢を
強く 強く抱き締めて
鎖を溶かしてしまいたかったのに

近寄ると貴方は
微笑みました
『大丈夫だよ』と
微笑みました

触れると貴方は
涙しました
『ありがとう』と
涙しました

その安らかな雫は
私をも煌めかすのに

[つづき]

■有り触れた"個性"(仮)

覚えたての言葉を
連呼する子供のように
オリジナリティーをもった
言葉など、
何一つ紡げない

それでも『これは、
自分が作り上げた物だ』
、と
信じてやまないのは

幾億の人々の中の
ちっぽけな"1人"だと
忘れてしまっているから

忘れたいから

僕はたったひとり、
ここにいるから

君の世界には
君しかいないから

■波の静寂の安らぎを(仮)

流れたい
流れたい
流れてゆきたい

ゆるやかな
緑色の
有り触れた波に
流されてゆきたい

背中を君に預けるから
安らぎを僕におくれ
瞳を君に捧げるから
輝きを僕におくれ

しずかなしずく

その中に見つけたら

きっと手を伸ばす
不意に手を伸ばす

それまでは
僕を預かって

僕に静寂の
束の間の
安らぎをおくれ