■唯一の、脆い、絆創膏(仮)

傍から見たら思い切り
何もなさそうな場所で
躓いて転げ落ちた夢を見た
目覚めると右腕は
ほんのりと赤らんで
放っておくと、次第に
青褪めていった

触れたらいけないんだ、と
囁くのは誰なんだろう
腫れてゆく　腫れているのに

皆は哀れむような
恐る恐る、といった眼差しで
癒してはくれません

触れようとする手のひらを
今、期待したのは誰なんだろう
痛くなんか ない はずなのに

少しだけ離れた場所で
静かに目を瞑る君が
夢の中で、痣ごと包んでくれた

そんな夢を、今夜は、見ようと思った

離れた場所で。

■(恐れたのはひたすらに)聡明な眼(仮)

ちょこん、と こちらを向いて
座り込む野良猫は
僕の向こうに何を
見ているんだろう

立ち止まって
空を見上げても
飛べそうな先は
何処にも見当たらなくて

立ちすくんで
足元を見つめても
還れそうな場所は
どうにも見つからない

少し後ろで響いていた
呼び声も 遥か昔

座り込む瞳に
見透かすような君の
面影を見ました

■偽善者(仮)

全部全部全部全部
嘘なんです
辛いから
辛いなら
疲れるから
疲れたなら
塗り固めれば良い

レッドカードは
先日の彼の人の
言葉につけた
赤い付箋でした

知らないなら
それでも良い

痛いから
痛いなら
固く 固く
踏み固めて
埋め立てた上に
醜態をさらせ

足の震えか 涙か 明日か
委ねるものだけは
見紛う事なきように

■来ないから(仮)

来たる日はどれだけ
待ち続けたところで
私に接触しては来ない

せめて、気付かないで下さい
迎えに来てはくれないのなら
せめて、振り向かないで下さい
見守っていてはくれないのなら

待ちくたびれて
私も服も部屋も
全部くたびれた

視界に入れたり
偽善を分けたり
社交事例を向けるなら

どうか

ちいさな優しさで
私を拒絶して下さい

少し遠くに行って
私の血流を醒ましたいの

■例えるならば、烏のように(仮)

ぐつぐつ煮詰めた私の言葉より
一年前の誰かの落とし物を
大事そうにお腹に抱えて
温度を保ってる

昨日あげた私の記憶より
フェードアウトしたあの日の形を
視界に捉え 狙いを定め
思い出そうとしている

一番欲しいものが
今、私の知らない
其処にあるのなら

いっそ、私ごと
その場所へ連れて行って
いっそ、両の爪で、

引き裂いて欲しい
(欲しかった)
踏み潰して欲しい
(欲しかった)

出来ないのならば
躊躇う事なく眼前で
貪ってしまって

、欲しかった。

[つづき]