■ふたりの時間(仮)

噛み切れない程
固くなってしまった
失敗作、
だから苦手
だと言ったのに
取り返しがつかない
今日の夜は
さて、どうしよう

電話かけたなら
買って帰る
なんて事はせずに
ちいさなプレゼント
明日は何もいらないから

真っ白な息を吐く
貴方は雑踏の中
真っ赤に焼け焦げた
私の失態を無駄にしないで
急いで駆けている
貴方の呼吸が聞こえるの
ふたりの時間のため
あなたの得意な
シチューが食べたいわ

[つづき]

■根っこ(仮)

どうして私のこのど真ん中の
侵す根っこを引き抜いて
すべてを見てくれないの
奪ってくれないの、か

疑いたくないの
不思議に思ってた
恨みたくないの
ただ悲しかった

一秒でも早く
早く　はやく
すべてが生える根の
肥やしになってしまわぬ内に
そうなって後悔するのは
私じゃないんだから、ね
はやく　はやくはやく
可能性の影が照らされぬ内に

根こそぎ奪い取りなさい

そうすればすべては
貴方の手のひらの中で納まります。
でなければ貴方は、
私のこの手の中で光る　さよなら

[つづき]

■灯し合う、ふたつ(仮)

｢僕が逃げ出したって
僕を追いかけて
来てくれる人なんて
いないんだよ｣って
少しだけ寂しそうに
いつもみたいに笑わないで
震える足じゃ
君に追いつけないから
｢大丈夫だよ｣って
言ってあげられなくて

抱き締めてあげます
それしか出来ないから
君が笑ってくれるように
私には体温しか無いから

虚ろな顔が見つめます
少しだけ温かになって
微笑みは私に
新しい灯(あかり)を
灯していきます

[つづき]

■まやかしは、面(仮)

監視の目をかいくぐり
通り、抜けた先の城は
右も左も 全てのものが
仮面で顔を覆い隠す

「どうやら、心の清い者には、
　皆の顔が丸見えらしい。」

知った風な口を利く
灯りすら ままならない
見える訳もないだろう、と
怯えた私の口は動いた

こんなにも何も見えない
微かに微笑んだ唇は
歓迎か　嘲りか
思考すら、ままならない

もしもここでこの面を
剥ぎ取り焼き殺せたなら
貴方の心の根の黒の
わだかまりまで、見えるのか？

禍々しい“共通”を
見出せなければ信じられない
右往左往　心は縦横に
どれだけの手を振り払えば
面の奥が見えて来るのだろう、か？

[つづき]

■宝という名の物語。(仮)

産まれて来た命は
ひとつひとつ
この温度で
この両腕で
容易く失ったりは
しないように、と

安らぎに満ちた僕は
やがて君の
風となって
音となって

温度を得たメロディーを
奏で、始まる

愛しい君の物語

愛しい 僕の大切な、

《宝物》という名の

新しい、キセキ。

[つづき]