ひたすらに白だった。僕が見たのはそれだけのはずだったんだけれど、そこには確かに君が存在していた。いくら視覚で捕らえられなかったにしても、それだけははっきりと断言できた。あの温度、あの息遣い、何よりあの優しい歌声は君だった。
距離はそう遠くはなかったはずだ。だってはっきりと聴こえたんだ。君が僕の『生』を請う歌が。
歩みをそちらへ進めようとすると、不意に君は歌を止めた。
…ああ、やっぱり。
君はもう、そっちの世界に行ってしまっていたんだね。
恐らくは、数年前。ほんの数ヶ月会えなかったあの時には、もう。
おばさんがいつも嘘をつく時にするあの悪い癖。僕は覚えていたから、可笑しいとは思ってたんだ。おばさんは僕の事も君のように可愛がってくれていたから、心配してくれたんだね。
そんなおばさんも今頃、君の隣で笑ってるかな?
僕もそこに行きたいよ。もう、君より5つも年をとってしまったよ。だけど、それでもあの頃が、あの頃君といた僕が、僕といた君が、今でも僕の“一番”だよ。
だけど、その君が、僕が生きることを望むなら―――
君は、あと少し、待っていてくれるかな?
どうしても、残したいものがあるんだ。伝えたい人がいるんだ。
終わったらきっと、例え君が望まなくとも戻って来るから。
それまでに…僕は、伝えなきゃ。狂気を纏った友に。
『それは、愛なんかじゃない』、と。